TEEB:残された方法はこれしかない。自然資源の経済的可視化

『TEEB:残された方法はこれしかない。自然資源の経済的可視化』
Report by: Eri Nishikami

中国の漁船が領海域以外でもはや海賊様の振る舞いをして問題になっていますが、なぜこんなことになったかと言えば、中国の人口増加、経済成長による魚の消費量の増加。自国の海域でやってれば良いのに、と思いたいのですが、汚染と乱獲により既に自分たちの海で十分な魚を獲ることができない。というわけで、韓国の魚を頂きます!という話なわけです。

Beach Pressの読者の皆様の多くはきっと、人間は自然の一部であることを理解していると思いますし、今のまま、全ての人間があの中国のように、見境なく地球から資源を奪って行けば最終的に自分たちの首を絞めることになることも重々承知のことだと思います。

世界を動かしているフリをしている政治家や大企業のボスの皆さんには、その根本的な理解が欠如しているようですね。ビジネスの成長が生物多様性の減少に影響していることを理解している世界の企業CEOの割合は、テンアメリカでは50%以上ですがヨーロッパ、アメリカは20%以下だそうで。以前、母なる地球にも権利を、という法律を作ったボリビアのことをGreen Newsでも取り上げましたが、ラテンアメリカって言うのはアレですね。自然と共存していることが当たり前な国が多いんでしょうね。

【もはや残された方法はこれしかない】

さて、本日のテーマは『自然資源にも値段をつけよう』という国際活動TEEB(The Economics of Ecosystems and Biodiversity)について。経済成長を重要視しすぎた現代社会では、自然環境や生物の多様性がありえないスピードで失われている。多くの人間は都市部に住み、自然と共存しているなど考えたこともない。水はタップをひねれば出てくると思っているし、ミルクはスーパーからやってくると思っている。自然がタダなのは当然でそこに市場が存在しないからと言って、自然に価値がないわけではない。あまりにも自然とかけ離れてしまった現代社会が自然と共存することを理解するには、自然に値段をつけるしかもはや方法がない。という考えをもとに活動している国際プロジェクトです。

話は戻りますが、TVで見た中国漁船。船全体を鉄条網で囲み、外側には鉄棒がいくつも突き出しています。何隻もの船がロープでつながれた状態で人様の海域(ま、これも勝手に人間が決めてるだけだけど)でやりたい放題のあの様子。自国で取れるものは取りつくし、なんとしてでも奪おうというほとんど狂気に憑りつかれた漁師たち。あれはもしかしたら、地球人全体のなれの果てかもしれない。なぜああなる前に気付かないんだろうというのが大きな疑問なのですが、TEEBがまず目指すのは、国際社会、そして経済活動を行う企業に自然の価値をお金に置き換えることで関心を持ってもらう事。

【自然資源の価値をお金に換算することでもたらされる効果
ご紹介のビデオのまとめになりますが、現代社会は今、壊れた経済の羅針盤をたよりに活動しており、誰も自然の価値を正確に測らないから管理することもできない。その価値を理解できないから自然は猛スピードで減少しているわけで、では、たとえば損失に対しての対応策を実施した場合と実施しなかった場合の経済への影響がはっきりと分かればどうなるか。漁業が崩壊したらどれだけの人が影響を受けるのかを明確にすることによって、国際経済にその概念を組み込み、各国の政策決定者が何をしなければならないかを考える機会を与えるわけです。

サンゴ礁は地元漁師に収入をもたらすだけでなく、コミュニティには観光からの収入を呼び、海岸線を波から守っている。また、サンゴ礁を住処としている生物には癌やアルツハイマーの治療に利用できることが研究されてるものもおり、サンゴ礁がなくなれば、これが全てなくなってしまう。それを『何百億円の損失になりますよ。』とわかりやすく提示するのです。

更に、たとえば森林コミュニティが、その森林を管理したことで土壌の浸食を防ぎ、水質を良くしたとしたならば、近隣の住民はその恩恵を受けるわけで、その努力に対してコミュニティにしかるべき対価を還元することも組み込まれています。

兵庫豊岡市では減農薬で水田づくりを始めました。結果コウノトリのエサになる生き物をよみがえらせることに成功し、コウノトリを野生復帰させ、更に農家の収益と同時に観光も増加し、経済効果としては1.4%の増収になったという事例があります。

TEEBを通して自然資源をお金に置き換えることで、まずは政策決定者に生物多様性を損失することのリスクについて理解させる。そして、地元に収入をもたらす新しい保全方法のノウハウを伝えることや新しい資源の管理方法で輸出、税収を増やし雇用も増える。というのがこのプロジェクトの目標。

PUMAの取り組みが与える他企業へのプレッシャー】
たくさん作る方が良い。たくさん使う方が良い。より多く持っている方が偉い。人間の作る資本は当然自然より優れているという考え。今のままでは自然という公共財がより重要であることに気付いた時には既にそこに自然はなくなっている可能性の方が高い。自然は無料でその資本を人間に提供してくれていますが、本当の市場とは自然が生み出すものだとそろそろ地球人全員が理解しなければならない。世界中が東京みたいに人工物だけになってしまったら経済成長どころか人類は多分終了する。我々は自然と共生することによってのみ未来が発展しうることを理解しなければならないという事なんです。

人間の経済活動において、環境に最も影響を与えると同時に、それをいち早く復活させることが出来るのは大企業とよばれるグループであることに疑いの余地はないでしょう。基本的な規模が違いますから。しかし残念ながら先に述べたように、企業と政治家はこの生物多様性の保全のスピードアップに全く協力的ではないようです。そんな中、PUMAは自社製品が消費する自然資源に経済的な価値を組み込んだ最初の会社となりました。親会社でGucciやStella McCartneyなどのブランドも擁するPPRは、今の経済システムは無責任に自然環境を劣化させていることを認め、それは今や時代遅れのビジネスモデルであり断固とした改革が必要と認め、環境損益勘定(Environmental Procit and Loss Account)を組み込みました。環境への配慮と言う点では、失う物の方が大きいと言う幻想のもと、こういった活動に二の足を踏む企業が多い中、PUMAのこの取り組みは他企業にとって大きなプレッシャーとなるだろうと言われています。

昔読んだ本に、忘れられない一節があります。“人間にとって一番大切なものはタダなんだ。”という一言。これの意味するところを本質で理解していない人間が国や企業のリーダーになってるもんだから今みたいな世界が出来上がってる。そういう皆様にはそろそろご引退頂き、地球に住まわせてもらっている生物の一部としての存在意義を理解している、そういった方々と共に世界を作りなおしていきたいものですね。

参考資料
Pavan Sukhdev http://pavansukhdev.com/articles/
The Guardian  http://www.guardian.co.uk/sustainable-business/pavan-sukhdev-valuing-biodiversity-ecosystem-services/print
The Guardian   http://www.guardian.co.uk/sustainable-business/puma-value-environmental-impact-biodiversity
Green TV http://www.japangreen.tv/ch08economy/eco02/381.html