yogaインストラクター柳本和也【ヨガで周りに良い人ばかりが集まるという法則】

Beach Boys : File #02
Kazuya Yanagimoto
Interviewed by Eri Nishikami
Photos by Goro Okuda

サーフィンでどんなことをしてもあの開放感は味わえない

ヨガに興味はあるけどやったことがない。という人も多いのではないでしょうか。私もそんな一人なのですが、ヨガをやったことがない私でも、今明らかにヨガブームだってことは感じるし、ではなぜ今そこまでヨガがブームになっているのか。

音楽にのせて楽しく踊るダンスとは違い、音もない中なんだか不思議で痛そうなポーズをやらされるヨガ。かなり地味な印象で、あまり興味はなかったのですが、たとえばサーフィンの神様ジェリーロペスもライフスタイルにヨガを取り入れその素晴らしさを伝えている。

たしか私がそんな地味な印象しかもっていなかったヨガについてもう少し興味をもったのは、ジェリーロペスの“Surf is where you find it”って本だった気がするのです。友達に貸したらそのまま帰ってこなくなったあの本。あの本を読んで、ジェリーがビッグウェーブに乗っているあのリラックスさ加減はきっとヨガなんだ!と思い、じゃあヨガって何なの?!と気になりだした。今回は最も私が知りたい“ヨガって何なの?!”を調査するべく辻堂にあるヨガスタジオUdaya Yogaにてインストラクターの柳本和也さんにお話を伺いました。

サーファーでもある柳本さんは友達に誘われてついていったのがヨガにはまるきっかけだったとか。
「その友達に連れて行かれるより以前にバリでヨガを体験したことはあったんだけど、自分でやるストレッチの方が激しいし、そのときはよくわからないままあまりはまることはなかったんです。はまったのは今教えているアシュタンガヨガに日本で出会ってからですね。」

「ヨガはサーフィンみたいに激しい動きではありません。呼吸、体の動きと目線で意識を内側に向けるんです。フィットネスやダンスは目線が動きますよね。人と比べたり鏡をみたり。ヨガは鏡をみることもなく自己満足の世界なんですが、初めてメディテーションするって感覚を味わいました。呼吸をしながら全身を使ってゆっくりずっと動いていくんですが、サーフィンでどんなことをしてもあの開放感は味わえないんですよ。始めた当時人生で一番どん底な精神状態だったから余計にはまったのかもしれないです。」

自分はヨガに出会って人生が変わったから同じ感覚を皆に味わってほしい

ヨガには様々な流派がありますが、柳本さんが教えているのはアシュタンガヨガ。
「アシュタンガヨガの特徴は先生に意識が行かず生徒が自分に目を向けることが出来ること。世界共通の決まった動きで流れるようにずっと自分を見ている動きなんです。80ポーズくらいあって、後になるほど難しいポーズになっていくんですが、僕にとってその動きは人生と似ているなというものでした。たとえば、少しずつ難しくなっていくので10個目まで出来て11個目が出来ないこともあるんですよ。そこで11個目の動きだけにフォーカスしてやるといつまでたっても出来ないんです。

でも1から10までをやっている流れの中で、ふとした瞬間に11個目が出来るようになる。つまり人生でどんないやな出来事があっても、日がたつにつれてそれはなくなっていく。波がある日もあればない日もある。家族が死んで落ち込むこともある。一つのいやな出来事に集中しているとそこで止まってしまうけど生きていれば最高な日もあるんだ、っていう感覚になってきたんです。

初めは僕も波乗りにも良いのではないかというフィットネス感覚だったんですが、色々なポーズを教えてもらっているうちに、体が床に溶けるようなリラックス感を味わえるようになったんです。同時にそれまではどれだけ窮屈にバランス失った生活をしてたかっていうのがわかりました。」

体が床に溶けるって、どんな感覚?!多分世の中の多くの人が本当にリラックスしている状態になることってほとんどないのではないでしょうか。寝てる間も放っておけばかちこちな人も多いハズ。ふと夜中に目が覚めたら歯を食いしばってたりしてませんか。リラックス状態というのは意識して自分で作り出さないとなかなか出来ないのかもしれない。

「一発目に筋肉が溶けるくらいリラックスした時は、帰りの自転車に乗ってる間も空気がほんとに気持ち良い。気持ちよすぎて最高でした。それまではヨガにタバコ吸いながら行ってた位なんですが、とにかくヨガに出会って生き方が180度変わりました。」

聞いてるだけで気分がよくなってきた気がします。ヨガをやったら皆すぐにそんな感覚を味わうことが出来るのでしょうか。
「今は地方へ行って教えたりすることも多いのですが、100人生徒がいれば30人は僕と同じ感覚を味わえるんじゃないかと思ってやっています。自分はヨガに出会って人生が変わったから同じ感覚を皆に味わってほしいんです。

自分のまわりに良い人しか集まってこない

その3割に入ればわたしもステキなリラックスライフが送れるということ?ところで、私の周りでヨガやっている人のほとんどは、ダイエットに良いからとか汗かきたいからというフィットネス感覚でやってる人が多いです。私自身はヨガをやったことがありませんが、ヨガは、本来エクササイズというよりも、心の静けさを取り戻すことを目的としたものではないかということ。ではどの教室へ行ってもそこまで教えてくれるのでしょうか?

「入り口はフィットネスとかエクササイズかもしれないですね。ヨガって初めてやる人は大抵息が吸えないんですよ。僕も最初は吐けるけど吸えないわけです。とにかくもっと息が吸えるようになりたい思いで必死に鼻から吸って~吐いて~をずーっとやってました。最初の頃、経典みたいなのを読んだり、宗教的な難しいことが書いてある本を読んでいた時期があるんですけど、それを読むより実際に息をすって吐いてしてたら、呼吸と体がつながってるんだってことが分かってきたんです。」

人間って体が完全に健康になって、肩甲骨がしっかり動くようになると息が吸えるようになるですよ。普通の人は鎖骨が斜めになってる人が多くてそのままでは息がちゃんと吸えないんです。だからみんな息が浅い。体を開いて息が深く出来るようになると、吐く息でリラックス出来るようになり、吸う息は前進、未来へっていう感覚になってきます。吸うことで元気になって、吐く息でリラックス。呼吸のバランスを取るんです。でも普通に生活してると基本的にため息とか吐く息が多いんですね。気分がダウンになってしまうんです。ヨガをやってる中でそういうことに気づかされていって自分がだんだん健康になっていくと体に気が巡ってくるのが分かるようになりますよ。」

ここで、ヨガを始めて変わったことって何ですか?っていう質問をしたんです。質問側としては、何か身体的な変化があったというような答えを期待しての質問なわけですが、返ってきた答えはこれでした。
「ん~、ぱっと思い浮かぶのは、自分のまわりに良い人しか集まってこないってこと。」
期待を裏切る素晴らしい回答。「今はたとえばサーフィンしててもこの波乗れなくても次があるからいいや、と思えるんですよ。でも昔は、その波しかないと思ってたから隣の人と取り合いみたいな感じだった。僕が横から割り込めば、相手もこっちに敵意を持つでしょ。でもそれをなくすと回りが良い人ばっかりになってた。変わったところはそこですね。ほとんどミラクルですよ。不思議なほど集まる人が変わったんです。」

「このスタジオも、葉山でサザエを取っていた時に、海から上がってきたら、ここのオーナーがBBQをしていて、取れたか?!と。取れなかったと答えたら、じゃあ一緒にBBQ食べないかって話になり、それをきっかけにすごく仲良くなって、それから、スタジオを貸してくれることになったんです。とにかく不思議な良いことがいっぱい起こるんです。」

ますます興味津々になりますね。ヨガをやってるだけで、ステキな人がいっぱい集まってくるって。でも、今自分の周りにいるひとは自分の鏡だっていうし、類は友を呼ぶっていうし、自分が変われば周りも変わっていくってことでしょうか。ところでそんなステキな人を引き寄せる心の安らぎは、初めての人もすぐに到達できるのでしょうか?
「もちろん何度もやらなければ感じることが出来ないひとのほうが多いけど、初めてでもそんな経験が出来る人もいますよ。僕は何度かやっていて、少しずつ体をほぐしていくその疲れから心地よさに入りました。硬さが少しずつやわらかくなって、呼吸の気持ちよさを感じて精神的に安定するんです。」

世の中の人全員がかわいく思えて来る

さてここでサーファーとしてここは聞いておかなければという質問。サーフィンで変わったことはありましたか?
「技術的にはスケボーやってるほうがうまくなると思うけど、自然体になるので、板から落ちなくなる。際どい体勢でも足がボードにくっついてるっていうか。それから体力がぜんぜん変わりましたね。相当ジャンクで大きいサイズとかじゃないと全く疲れないんです。

「ヨガのクラスではずっと吸って吐いてを90分やるわけですが、そうすると筋肉が細くなって、インナーマッスルが鍛えられるので勝手にに体力がつく。呼吸が深くなると、生命力がついてる感じになります。それから僕が教えてもらった先生が言ってたのは呼吸と同じで発する言葉も出来るだけ丁寧にっていうこと。僕は関西弁だから余計に気をつけるんですけど、それに気をつけてると、ほんとに良い人ばっかり集まってくる。出会いの一歩を丁寧にすると、相手もそうやって返してくれるものです。」

たしかに初めて会う人でも壁が全くない人がたまにいる。向こうがすんなり入ってきてくれるとこっちも受け入れられるのは良く分かる。でも自分で変な壁を作ってることが多かったりするのです。ヨガやってるとそんな壁を作らなくなるのでしょうか。
「簡単に言うと、もう世の中の人全員がかわいく思えて来る!子供もおじいちゃんも、電車でよっかかってくるサラリーマンも。普通はいやだって思うんだろうけど、“あーこんなに重いバッグ持って一生懸命頑張ってるんだな”って思うとかわいらしいく思えてくるんですよ。人に優しくなれますよ。」

ヨガレッスンに行けば、どこの教室でもそんなステキな話を聞かせてくれるわけではないと思いますが、Kazuya先生の教室ではそんなお話もしてくれるんですか?
「ここは終わった後に皆で結構話したりするし、ヨガの間にもちょこちょこ話をします。ヨガにもヨガスタジオ、とフィットネスヨガスタジオがあるのでもちろんどこでもそういう話になるとは思いませんが。先生にもよりますし。」

「僕は最初のころ、ヨガ哲学も教える先生にアシスタントとしてついていたことがあるんです。その先生は“ヨガは宇宙とつながることだ”って話をするわけですが、僕はその先生みたいな話はうまく出来ない。そんな時その先生に、自分の経験から話をすれば良いと言われたんです。たとえば、波乗りで言うと波がなければ釣りをしたり、冬になればスノボしたり違うことをしようと思うでしょ。でも普通の人って、たとえば会社でいやなことがあったらその事に対する思いを変えられない人が多いと思うんです。ある場所に止まったらそこばかり見ちゃう。でも次に進まなきゃだめでしょ。っていう話をするんです。自分が体験したことを通して話をしますね。」

ヨガを始めて争うっていう気持ちが全くなくなった

予想はしていたけどやっぱりヨガって奥深い!サーフィンと一緒ですね。生きる道しるべ。ヨガって先生にとってなんですか?
「やっぱり、大事なもの。大事にやっていきたいもの。ちょっとした感覚で考え方を変えるだけで楽しく生きることが出来るってことを教えてもらったんです。サーフィンと一緒で、サーフィン出来なくなったらどうしようって思うと大事にサーフィンするでしょ。それと一緒です。入院したり、怪我してる人に比べたら僕は今これだけで十分幸せ。もっとこうしたいとか考え出すとそれがストレスになるでしょ。サーフィンできてヨガできて。僕にとってヨガは仕事っていう感覚じゃないんですよ。明日仕事?って聞かれると“あれ?!仕事だっけ?!”って言う感覚。仕事じゃない。普通仕事って、プレッシャーだったりストレスだったりするけど、それが全くないですね。」

レッスンでのアジャスト。アジャストしてもらっているのはダンサーの友達なのですが、もともと柔軟性のある彼女もアジャストしてもらうと自分が今まで届かなかった所に到達できて不思議だと言ってました。でもさすがダンサー。美しいですね。

仕事なのに、仕事感覚じゃない人。サーフィンしている人にも多いけど、自分が楽しいと思える仕事をして生きていく秘訣って? これはBeach Pressの永遠のテーマなので、インタビューする人には必ず聞いています。世の中やりたくないことをやらなければならないからという理由で仕事にしてる人が世の中大半だと思うけど。

「もうね、日本の人全員ヨガしたほうが良いと思うんですよ!僕はヨガを始めて争うっていう気持ちが全くなくなったし、これだけは大切にしなければというものがシンプルに、明確にわかるようになった。メディテーションすれば大事なものが見えてくると言われていたけど、これからも生きていく中で大事なものは、海、サーフィン、ヨガ、そして奥さんと子供。それだけは大事にしなきゃ。これに友達とごはんを食べにいけたり、好きなときにサーフィンできて、バリへ波乗りしに行きたいと思ったら行けるお金があれば強烈に幸せ。」

「僕今結構最高ですよ!ヨガ始めたころは、最高な気分ではなかった。ヨガを始めてだんだん最高になって行ったんです。人生がんばらずに楽しんでいくことが大切なんじゃないでしょうか。僕も昔はワークショップをやるときに、話をしたり、説明したりっていうプレッシャーがあったのでその日までにノートに色々とスケジュールを書くんですよ。ここまでで40分、ここから何をする、っていう。でも実際どうなるかなんてその場に行って皆と会わないと分からないわけですよ。それがストレスになってたことはありました。でもそんなこと以前に今日も朝日がきれい!って思ってるほうが良い仕事が出来ることがわかったんです。好きなことをみつけてそれだけは徹底的にやる。そうすれば生き生きしてくるはず!

普通の人にはあり得ない体勢ですが、先生のアジャストでほとんど床に着いちゃうんじゃないかってとこまで行ってました。

私もついでにやってもらいました。先生の指示で息を吸って吐いてを繰り返すうちに、基本カチカチ山の私がこんなことに。顔がムリって言ってますけど。

どうです?!ちょっと、読んでるだけで楽しくなりませんか?一度インタビューで同じ話を聞いてるわけですが、改めて書いてみたら、書いてるだけでテンション上がりました。ヨガとサーフィンってセットでやっている人が結構多いですが、その理由もちょっと分かった気がします。サーフィンって、とても個人的なスポーツ。ヨガもそう。サーフィンって、海に一人でぽかんと浮かんでると、海ってなんて広いんだろ。空ってなんて高くて青いんだろ。とか普段なら“あたしちょっと病んでる?!”みたいな思いが自然と浮かんでくる。多分ヨガもそうなる。シンプルに生きることの大切さっていうか。ステキなお話ありがとうございました。

PROFILE:柳本和也
4歳から少林寺拳法やサッカー、1994年頃サーフィンを始め、日々のライフワークとなる。サーフトリップで何度も訪れているバリ島でヨガに出会い、悩みであった腰の冷えや怪我の多さから解消され、ヨガの素晴らしさに目覚める。帰国後、アシュタンガヨガの権威であるケン ハラクマ氏に師事。iycティーチャーズトレーニング修了。2010年インドゴアにて、Rolf & marciに師事。2010年チャック&マティ ティーチャーズトレーニング終了。ヨガ指導の他、様々なイベント・ワークショップ等にも積極的に参加し活動中。
Udaya yoga studio主宰 http://udaya.jp
http://ameblo.jp/kazuyayoga
suria アンバサダー