Beach Boys File #01 Ryoichi Fuchie前編

Ryoichi Fuchie
淵江亮一さん(湘南在住/27歳)

【前編/On SURFING 】
Interview by Meiko Shinomiya

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Beach Boys File #01 Ryoichi Fuchie 後編

Q.サーフィンを始めたきっかけは?
大学生の頃に畳屋さんでバイトをしていて、クルマに乗って移動することが多く、初夏のある日、軽トラックに乗っていたらFMラジオから発売前のデフテックの『マイウェイ』がかかってきました。一緒にクルマに乗ってたバイト先の先輩と「この歌は売れるね」「海に行きたい気分になりますね」って話していたんです。

Q.そのときはサーフィン経験はまったくなく?
僕も先輩も行った事ありませんでした。そのとき、僕は助手席に座っていたので、ケイタイのインターネットですぐに“サーフィン 湘南”で検索してみたのです。

Q.どうしてサーフィンだったの?
『マイウェイ』の歌詞にはサーフィンのことは書かれていないのですが、デフテックの二人の声の雰囲気だったのかなあ…。広大な感じというか、深い感じというか、それがサーフィンにつながったんだと思います。デフテックのマイクロがサーフィンをやっていたことも、そのときは、全然知らなかったんです。

Q.なぜ湘南だったの?
東京に住んでいたのですが、サーフィンやるんだったら湘南だろうとしか思えなくて(笑)。そのときは、鵠沼とか茅ケ崎とか辻堂とかの地名も知らなかった。検索画面の一番トップに出て来た鵠沼のサーフショップにその場で電話して、「今週末の日曜日のスクールを2名でお願いします!」って予約したんです。それで、その先輩と二人でスクールを受けたのが始まりです。

Q.初めてのスクールはどうだった?
ショップに行って、かなり古いサーフィンビデオ、DVDじゃなくてVHSのビデオだったのですが、ナット・ヤングのライディング映像を見ながら説明を受けたのを覚えています。お店の中でテイクオフの練習をして、海に行って、またテイクオフの練習をして…。

Q.その初回のサーフィンはどんな思い出?
みんなサーフィンは初めて立てたときにハマると言うけれども、僕もレッスン中に立てたのですが、正直、全然楽しくなかったんです(笑)! でも、自分の思い通りに行かない感じが闘争心に火を灯してしまったようで、「ああ、上手くなりたいな。上手くなったら、きっと楽しいんだろうな」と思いました。それで、初日にウェットスーツとボードを買いました。その先輩と一緒に、ボードは色違い、ウェットスーツはサイズこそ違いますが、同じものを購入しました。

Q.その後は、お揃いルックで先輩と一緒に海に(笑)?
はい! ウェットスーツの後ろのジッパーを自分で上げられなかったので、二人で閉め合ってました(笑)。先輩は仕事が休みのときの週1回だけでしたが、僕は学校に行く前に週3、4回は通っていました。

Q.それからずっと鵠沼に通ってるの?
それから何年間も、鵠沼の河口から銅像前でしか入りませんでした。水族館の方にすら行った事がなかった。

Q.途中でサーフィンに飽きなかったのは何故だと思う?
経験を積むにつれて、波に乗れる時間が長くなってくるし、乗れる確率も高くなってくる。そうすると想い描くイメージにだんだん近くなってくる。想い描いているのは、もちろんカッコいいライディングで、客観的に見るとそれはまだまだ先のレベルなのですが、でも少しずつ近づいていくのが常に実感できるからだと思います。

Q.毎回のサーフィンでステップアップを感じられるということ?
一回海に行くと、「ああ、これが足りないんだ」って思えます。他人のライディングを見て、「後傾ってこういうことなんだ」とか「右に曲がれるけど、左に曲がれないのはこういうことだったんだ」とかいったことを気づくことができる。

Q.つまり、あなたにとってサーフィンは、純粋に「気持ちいい」とか「楽しいというよりも、練習みたいなもの?
上達したいっていう気持ちが強いのだと思います。もちろん、気持ちいいし、楽しい。けれども、これは仕事でも言えることだと思いますが、ある程度のレベルに行かないと、本当は楽しいことも楽しめないと思う。遊びも上手に遊べるから楽しいわけで、例えばトランプでルールがわからなかったらまったく面白くないし、ブラックジャックも上手だったら楽しいけど、ただ負け続けていたら楽しくない。なんでも、上手くなったらもっと楽しい世界が広がっていると思うんです。

Q.努力家なんですね?
どうですかね? ただ上手くなりたいです。それは上手いのが偉いとかカッコいいからじゃなくて、それ以上に上手くなれたらもっと楽しさが広がるって思うから。たった2、3秒間ロングボードのノーズに乗れるだけでも気持ちいいでしょ。「だったら、20秒、30秒ずっと乗る事ができたときに得られる快感ってどんなのだろう?」って。そういう世界を見てみたいなあって思う。

Q.サーフィンを始める前から海は好きだった?
実はまったく興味がなかったんです(笑)。他の事でもそうなのですが、実際に自分がやらないで、見ているだけの「風景」としてのものには興味がありませんでした。中学校時代は太鼓をやっていたのですが、他人の演奏を聞いてもまったく楽しくなかったし、高校時代にやっていたラグビーでもそう。試合を見ても全然面白くなかった。自分がそこに入ってやっていないと興味を持たない人間だったのだと思います。だから、サーフィンをやるまでは、海は自分にとってはただの「風景」で、それを見ているだけで楽しいっていうような気持ちはなかった。それがサーフィンを始めて変りました。今では、海を見るともちろん入りたいとも思うけれども、見ているだけでも楽しいって思うようになった。

Q.どうしてサーフィンによって変ったんだと思う?
自然の中で遊ぶってことは、ボールひとつを動かすこととか、人の動きを制圧するといったスポーツとは違う部分がすごく大きい。だから、そういう見方ができるようになったのかなあと思います。

Q.今、サーフィンの何に虜になってる?
1本1本、自分が狙った波に乗って滑って、満足もあるし不満足もあるところかな。もちろん、「気持ちいい」が心を占める割合は非常に大きいのだけれども、気持ちいいだけで終わらないところ。「ああ、ここでもうちょっと体の向きを変えていれば」とか「重心を変えていればもっと上手く行けたかもしれない」という欲を与えてくれる、次に向かう力を与えてくれるって思えるから。でも、そんなの気にしなくても、「今乗れたのが気持ちよかったね!」って思える。その両方があるところが好き!

Q.サーフィンでの目標は?
最近、ショートボードを始めたのですが、波によって板を変えるとか、同じ長さでもトライだったりツインフィンだったり、スタイルの違う板に乗るといった楽しさが加わってきました。だから、いろんな事にとらわれないで楽しみたいなって思っています。「俺はロングボーダーだから」とか「ショート至上主義でしょ」というふうには思いたくなくて、これからもっと楽しみの幅を広げていきたい。乗った事がないから、アライアにも乗ってみたいし…。

Q.試合には出てる?
サーフショップの大会には出た事があります。試合で勝つ事が目標ではなくて、上手くなりたいから、そのためのステップとして、自分が出られる大会にはどんどん出てみたい。

Q.それは実力を試してみたいっていうこと?
はい。勝ち負けとか他人と競うということではなく。今度も、7月3日にある地元の大会にショートボード・ビギナークラスで出るのですが、その目標を設定したことで、ショートボードをより一生懸命に練習するようになったのだと思います。

Q.以前に出たショップの大会では結果はどうだったの?
それが初めて出た大会で、結果はセミファイナルまで行ったのですが、自分の精神的な未熟さを感じました。本当はもっと上まで行けると自分を信じていたんです。でも、実際に試合のときに自分がとった行動はそれとは真逆でした。波に乗って戻って来たらまた来た波にすぐに乗って…。ものすごく焦っていましたね。自分を信じて波を待つことができなかった。そういった経験からも、次につながる課題が見えるし、トライしようって思えるから、出てよかったと思います。

Q.常に次の目標を探し続けているんですね。次の7月の大会が終わったら、何を目標にするの?
そうですね…、デジタルの時計を買って、何秒間ノーズにいられるか自分で計り始めるかもしれませんね(笑)! そういうのも面白そう。で、計っている間に自分に甘くなって、歩いている最中に押しちゃったりして…(笑)。それは冗談ですが、今年の夏は大会が終わったら、ボディボードをやってみたいです! 海水浴規制が入る夏の鵠沼で。今、NAKI SURFから『The Beater』というボディボード素材でできたスタンドアップ用のボードを支給していただいているのですが、まわりの環境に恵まれて、いろんな刺激があることで、サーフィンの世界が広がって行っていることがとても嬉しく感じているところなので。

Q.6月1日からNAKI SURFでニコリンブログを始めたんですよね? 多くの応募者の中から見事、ニコリン師範の第一号に選ばれたと聞きましたが、それは一体何ですか?
プロサーファーであり写真家の船木三秀さんのナキサーフで、「ニコリン模範師範」というのを募集していたんです。「本人はもちろん、他サーファーが笑顔になる模範人」を探すという企画で、ブログ執筆をして全国に“ニコリンの輪報告”をすれば、NAKISURFのサーフボードを一定期間支給、貸出してくれるというものでした。いつも読んでいた船木さんのブログで知って応募したんです。

Q.船木さんのブログをいつも読むようになったのはなぜ?
写真がきれいだったから。すごいサーファーだっていうのは、読み始めたときは知らなかったのです。最初に見たのが、桜の写真だったのですが、それに心を奪われて毎日見るようになりました。続けて読んでいくうちに、言葉の選び方や使い方、表現の仕方がすごいなと思うようになって。だから、今、こうやって憧れの存在であった船木さのもとで、ニコリンブログをやらせてもらえているのは、自分にとっては奇跡みたいなことです。

Q.しかも、ニコリンサーフの「師範」ですからね。
そういう機会をいただいたから、よりいっそう、サーフィンも、自分が生活している時間も、もっと楽しく笑ってやっていきたいなって思うし、それを人に伝えていきたいなって思うようになりました。無理して笑うのではなく、海でサーフィンしている人を見たら、楽しそうだなとか気持ちよさそうだなって自然と笑顔になっちゃうし、例えば電車の中でも、買って来たばかりの新しいiPadを嬉しそうに取り出して使っている人を見たら、幸せだろうなってより強く思えるようになりました。大事に続けていきたいなって思います。

Q.あなたにとってサーフィンとはどんな存在ですか?
やればやるほど、サーフィンのことを考える時間が多くなってきて、睡眠時間が短くなってくる(笑)。サーフィンのことを考えていても、調べても、見ていても、感じても、それは常に自分よりも圧倒的に大きな存在だから、終わりがないし、頑張っても満たされることはないのだと思う。それがきっと楽しいのだと思います。そういうものに出会えたことは本当に素晴しいこと。人は大抵のことはコントロールできてるって思ってしまうのではないでしょうか。今の状況に満足してしまうもの。でも、サーフィンの場合は、満足していたと思った次の瞬間には、すごいセットが来て波に巻かれたりする。そんな一つの出来事で、まだまだだなぁって思わされる。それは、例えば将棋の世界で、すごい上手い人がいるというような、人対人のレベルではないところで起こっていること。それをたった数百メートルしかないひとつの海岸という、限られた場所でも感じることができるってすごいことだと思う。だから、もっと外の世界に出てみたらどうなんだろうって思うし、もっと知りたいなって思います。

Q.世界に出てみたら、意外に世界は狭かったって思うかもしれないしね。
そうですよね。やっぱり湘南が一番だって思うかもしれない(笑)! でも、それは行かないとわからないし、1回行ったからと言ってわかるものでもないかもしれないし。

Q.将来、どんなサーファーになっていたい?
自分がそこまでできるかどうかわからないけれど、楽しい世界を教えてくれたサーフィンだから、波乗りをしていない人にもその楽しさを伝えられる人間になりたい。そして、常に何かに満足していながらも何かを求めている生き方をしていきたい。それってすごく幸せだと思う。満足することだけが幸せじゃないと思う。何かを発見できる歓びを常に感じられる人間でありたいです。

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Beach Boys File #01 Ryoichi Fuchie 後編

PROFILE
淵江亮一●1984年8月6日生まれ。東京都出身、神奈川県藤沢市在住。ホームポイントは辻堂。早稲田大学を卒業後、都内のイタリアンレストラン、ビストロでの勤務を経験。ソムリエとバリスタの資格を持つ。プライベートでも日々ワインを楽しみながら、ほぼ毎日海に入りビーチライフを満喫。NAKI SURFニコリンブログ執筆中!  http://www.nakisurf.com/blog/nikorin/
【淵江亮一クンのインタビューの続編(仕事編)は、6/23アップ予定!】