小池葵のこれまで、そしてこれから2

小池葵のこれまで、そしてこれから2

【15FT のパイプライン】
ところで、日本で優勝10回に加え、彼女はあのパイプラインで行われる試合で二度優勝している。パイプラインがどんなポイントか知らない方のために簡単に説明すれば、それは常に死の危険と隣り合わせのポイント。そこで、地元ハワイの選手や、ボディボードでは常に何歩も先を行くブラジルの選手と戦うわけである。
「当時パイプの試合はまだ18歳以上でなければ出れず、私はそれを目標に、絶対うまくなるんだと思って練習していました。練習でパイプに入っても、あそこは世界のトップが集まる場所で私なんかが乗れる波なんてほとんどないです。もう必死ですよ。おこぼれしかもらえないから。いつもお化けセットが入ると死に物狂いでパドルとキッキングです。あれが一番こわいですね。」

海底に横たわる、まるでお城のようなリーフのすぐ上で波がブレイクする世界一危険なポイントの一つであるパイプライン。あそこの波にやられたら、一体海の中でどんなことになるのかには皆さん興味があるのでは。
「もーほんと、もみくちゃです。たまに人と重なって巻かれたりとかして、誰かを踏んで上がってくるとか(笑)ほんとそんな世界ですよ。逆に、もう息が苦しくて仕方ないのに、私の上に誰かがいたりとか板があったりとか(笑)、こっちだって必死なのに!みたいな。あと、せっかく沖まで出れたのにそこでまたやられたりとか。」

彼女が経験した一番大きなパイプはなんと15FTだ。
「コンディションによりますが、同じ大きい中でも、落ち着いてるコンディションなら、セットで15FT位までなら入ったことがあります。もちろんそんなセットは乗れないですが。そんなときは、セットのウネリが見えたら早く沖に行ったり、で、また戻っておこぼれを乗る感じなので行ったり来たり。うろちょろしてました。足はハワイ滞在期間中にめちゃめちゃ太くなったりしてました。」

ほとんどのサーファーでも15FTとはどんな世界なのかを知らない。未知の世界。6FTでも恐怖で逃げてしまうサーファーの方が圧倒的に多いのに、小池葵は15FTのパイプラインを経験している 。そのパイプでの試合で4年前に優勝したのを機に試合を引退。
「自分が育成している子供たちが上手くなっているのが目に見えていたので、もう自分ばかりを追い込んでも仕方ないな、次の時代の事を考えていかなきゃだめかな、と思いはじめたんです。自分も選手をやりながらその子たちを指導していたんですが、引退して指導に専念しようと思ったんです。」

【ボディボードのこれから】
彼女の指導で去年、二人がプロに転向。
「一人一人練習内容は違います。一番難しいのは精神面です。試合の戦い方とかをアドバイスしていく中で、日ごろの生活の考え方だとかまで教えています。ある程度その子たちと何年か一緒にやっているので、成長段階で考え方が変わってくるのはいい面も悪い面もありますが、根本的な性格の持ち味をいい方向にもっていきたいんです。それぞれがちがうからそこが一番難しい。私が一緒にいる時間って、ほんの少しだから、ご両親を含め周りにかかわってる人たちの協力がとても大切です。」

海でみるボディボードの女の子は少なくないが、彼女が現役で活躍していた当時と比べると業界としては客観的に見て明らかにあの頃ほど盛り上がってはいない。ボディボードという業界を背負ってこれまでやってきたといってもおかしくはない彼女。ボディボードのこれからについても聞いてみた。
「まず、私は一人でも、業界を引っ張っていけるようなスター選手を作りたいです。それがうちの選手なら一番うれしいですけどそれが無理なら、そういう子が出来るような環境をつくっていきたい。今ボディボードって30代が一番多いんですが、若い子がいなければ、後が続かないですし、だから育成に専念しています。それから、その子たちが成長する上でどうやったらスポンサーがつくかと言えばやっぱり一般層が増えなければいけないので、私はなるべくスクールを通して、ボディボードの楽しさを伝えていく中で、底辺を増やす。その両方をやっています。ただ私一人で出来る活動ではないので、やれることはやりつつサーフィ、ボディボード、ロングを問わず、皆で一緒に頑張っていかなければならないとは思っています。一つ海のスポーツとして業界の皆が一人一人、盛り上げていこう!という気持ちがなければ、その思いが無くなったらおしまいな気がするので。単純に、純粋な気持ちでボディボードが好き、海が好きっていう、気持ちをいつまでも持ち続けて、どうすれば楽しく海に入り続けられるかっていうのを、みんなが考えてくれたらいいなと思う。」

3ページ目へ続く